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中村晃の『やり抜く力』…”もう一度輝けるチャンス”にかける思い

上杉あずさのスコアブック
公開日:2025.08.27
中村晃の『やり抜く力』…"もう一度輝けるチャンス"にかける思い

まさに”若鷹たちの師”——。

26日、中村晃選手が通算1500安打を達成しました。「とにかくプロとして試合で結果を出すためにバットを振り続けてきました。その証でもある、1500という多くの安打を積み重ねられたことを嬉しく思います。もちろん家族の支え、まわりの方々のサポート、ファンの声援があって今があります。この数字に満足することなく、これからも自分の限界までバットを振り続けていきたいと思います。チームの勝利、リーグ優勝、日本一に導ける選手を目指し続けていきたいです」と球団を通してコメントしました。

『代打の切り札』から変化した役割

チームとしては主力の相次ぐ怪我など開幕から様々なアクシデントがありましたが、それにより運命が変わったのが18年目の中村選手でした。当初、今季は『代打』に専念することを小久保裕紀監督と2人で約束していましたが、チーム事情の変化で求められる役割も変わることに。もちろん、絶大な信頼と能力があってこその『代打』の切り札ではありましたが、プロ野球選手としては当然、スタメンで試合に出たいもの。

4月上旬、主力が離脱したことについて、中村選手に胸の内を尋ねたことがありました。すると、「チャンスのある選手が増えるんじゃないですか。僕含めてですけど」とキッパリ。私はてっきり、「チームとしては苦しいですけど、みんなでカバーしていくしかない」などと年長者としての優しい言葉みたいなものが出るのかなと予想していたものだから、闘争心溢れる中村選手の言葉が刺さりました。決して多くは語りませんが、覚悟に満ちた強い眼差しは今季にかける熱い想いを物語っていました。そんな言葉が嬉しく、頼もしく感じました。

結果を残し続けなければ、自身の立場を守り続けることは出来ない――。そんな危機感を抱きながらも、中村選手はプロフェッショナルとして日々技術を磨き、鍛錬を積んできました。ただ、自分のことだけに集中してもいいはずなのに、周囲への気配りは怠りません。それが、多くの後輩に慕われる所以でしょう。

居ても立っても居られず、若鷹が報告してくれた”晃さんからのプレゼント”

今年の春先のことです。その気配り、後輩思いな行動を若鷹が明かしてくれました。育成3年目の佐藤航太選手が「聞いてください!晃さんが、寮生分の本を下さったんですよ」と教えてくれました。その本とは、『GRIT やり抜く力』。ダイヤモンド社から出版されたアンジェラ・ダックワース著の一冊です。

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寮にどっさりと届いた本には、「まだまだ若い寮生のみんなに是非読んでほしい本があったので、プレゼントしたいと思います」という一文から始まる手紙が付いていました。19行に渡る感想や熱い思いが綴られており、最後は「みんなの未来が少しでも良いものになりますように」と締めくくられていました。

佐藤航選手は「正直、本を読むのは苦手でした。学校の読書の時間も『地獄や』と思っていた自分が、晃さんがキッカケを作って下さったお陰で今、本を読んでいるんです」と目を輝かせました。さらに、『やり抜く力』という本のタイトルを見て、「自分はやり抜く力が弱いんです。だから、そのタイトルも刺さって。『これ、俺のことや』って思って」と運命の一冊との出会いを振り返ります。中村選手の好意にも感動した佐藤航選手は、本の世界に飛び込みました。

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さらに、2年目の前田悠伍投手もその本をすぐに手に取り、読み進めました。朝起きて、窓際で読書をするのが日課だと話していた右腕は「めっちゃよかったです」といつもやる気満々ですが、この本を読んでさらにモチベーションが上がったことを笑顔で語ってくれました。「この本を読んでから、読書意欲も増しました」とさらなる学びを求めていました。

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私自身も、佐藤航選手に話を聞いてすぐにこの本を購入し、読み進めました。
「生まれつきの才能」は重要ではなく、『やり抜く力』は”天才”を超えられることなどが様々な研究結果と共に示されていました。人より優れた能力などないと思い、熱意と根性だけで走り続けてきた自分自身にとっても励みになる1冊でした。

「少しでも刺激になればいいなと思って」 中村晃が浮かべた満面の笑み

ずっと中村選手本人に伝えたかった”本の話”。

オールスター休暇明け、1軍が筑後で全体練習を行った後、満を持してお話させて頂ける機会がやってきました。若鷹が感激していたこと、佐藤航選手が初めて本に夢中になったことなど、中村選手に伝えると「マジで?えー!嬉しい!本当に?」と興奮気味の満面の笑みで喜んでくれたのです。

さらに、「菊池雄星投手がオススメしていた本で、それで僕も2月に読んでみたんですよ。僕にとってもいい本でしたし、育成選手はモチベーション難しいなと思うこともあるだろうし、少しでも刺激になればいいなと思ってね。なんか時代の風潮的にも合理的な近道をどんどんいくようなことが正しいって思われがちだけど、成功している人は努力を重ねて重ねて、最終的にたどり着くみたいな話だと思う。僕も経験してきたことですし、若い選手にもいいかなと思って」と熱を込めました。まさに、今回達成した1500安打も努力を重ね、やり抜く力でたどり着いた金字塔でした。

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「もう一度輝けるチャンスを貰った」今季にかける覚悟と『やり抜く力』

後輩のためにと行動した思いを聞いてみると、中村選手はこんなことを吐露しました。「僕自身は先の方は長くない。選手人生はここから10年、20年やるわけではないので。後輩には素晴らしい選手、人間としていろんなものをホークスで受け継いで行って欲しいなというのはあるので、何か出来ることないかなと。僕、あまり言葉で言うのは得意ではないので、何かないかなと思ってやりました」と照れながらも、胸の内を語ってくれました。

年々増してきた後輩を思う気持ちを抱きながらも、自身のプロ野球選手としての『やり抜く力』は揺らぎません。

開幕当初のことを振り返ると、「このまま今年は代打としてやっていって、そこで活躍しようと思っていたシーズンでしたけど…自分自身ももう一度輝けるチャンスを貰ったというか…簡単に諦めたくはないですよね、選手として。常に自分を奮い立たせてって感じですね。終わるのは簡単なので。まだまだしなくていいって言われているようなチャンスがあったので、今年。まだ全然やれるぞっていうところは見せたいですね」と中村選手。静かで優しい口調でしたが、覚悟と決意に満ち溢れた熱い想いが滲んでいました。

正解のないベテランの在り方——。自身の『やり抜く力』を研ぎ澄まし続けながらも、ホークスのため、後輩のためにという強くて優しい思いを胸に抱く中村選手。プロ野球選手として挑み続ける姿をこれからも応援したいと心から思いました。

Writer /

上杉 あずさ『班長』