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「甲子園に出たい」未練が繋いだ野球人生  

上杉あずさのスコアブック
公開日:2025.09.09
「甲子園に出たい」未練が繋いだ野球人生

8月中旬のことーー。


「自分、甲子園に出たいんですよ」、取材をしているとこんな言葉を発した選手がいました。甲子園真っ最中ということもあり、”ノリ”で言ってるのかなと思いましたが、その目は真剣そのもの。山本恵大選手でした。

明星大学から2021年育成ドラフト9巡目指名を受けて入団し、4年目。今年の4月に支配下登録された、逆方向にも長打が打てる飛距離が魅力の左打ち外野手です。

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初めての野球ノートに込める思い

そんな山本選手が試合後、室内練習場にしゃがみこんでペンを走らせている姿を見ました。「同じ失敗は出来ないので。ノートに書いて、残してやっていかないと」と”野球ノート”を書いていたのです。実は8月15日に1軍の出場選手登録を抹消されて以降に始めたばかりのことでした。

「今まではやったことがないことでした」と山本選手。なぜ、突然ノートを書こうとなったのでしょうか。

「1軍にいて、やらなきゃと思いました」と感じたのは危機感。「自分は強豪校で野球をやってきたわけでもないし、元々野球偏差値も高くなくて。もっと野球を知らないといけない。同じ失敗を繰り返すと、1軍には残れない」と痛感したのだといいます。

2本塁打など結果を残した一面もありますが、山本選手は「野球、まだまだ分からないことばかりでした。そこで苦しんだ所もあったし、不安要素にもなっていて。これからも野球をやっていく上で、残していかないといけない」と強く感じたのでした。

支配下登録されて初めて1軍に昇格した際にはわずか4試合の出場に留まり、『H』ランプを灯すことは出来ませんでした。でも、2度目の昇格は7月3日から約2か月、1軍に食らいつきました。21試合に出場し、61打数15安打。逆方向への2本塁打は強烈なインパクトを残しました。着実に成長し、その能力を見せ付けた部分もありましたが、プロ野球選手として活躍するため、そして、山本選手が密かに抱く夢のために、野球をもっともっと知る必要があったのです――。

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▲国士舘高校時代の山本恵大(本人提供)

最後の夏の未練が繋いだ野球人生

「自分、甲子園に出たいんですよ」と山本選手は心の中にずっと抱いてきた思いを口にしました。高校時代に叶わなかった舞台に、いつか指導者になって……そんな夢を描いていました。

というのも、山本選手の高校野球には大きな未練が残っていました。国士舘高校2年生の頃に右肘を疲労骨折。そして、最後の夏を目前にした高3の5月に肘の手術を受けました。仲間達よりひと足早い夏の終わりのサイレンが、山本選手の心で鳴り響きました。最後の夏を迎えられぬまま、高校野球に別れを告げたのでした。

高3の春の時点で、肘の痛みも強かったため「もう野球は出来ないな」と高校で野球を辞める決意を固めていました。ところが、山本選手の引退を引き留めてくれたのは両親でした。「『ここで辞めちゃうの?』って親が悲しい顔をしていたんです」と当時を振り返ります。

さらに、術後の入院中、離れて感じた「やっぱり野球がやりたい」という思い。既に野球を辞める旨を周囲に伝えていましたが、山本選手は高校の監督に頭を下げ、進学先を探してもらったと言います。すると、明星大学が声を掛けてくれて、野球の道が繋がりました。

明星大学は山本選手が入団する前の秋に首都大学野球リーグの2部に降格。「全然、強豪ではありませんよ」と山本選手。大学のグラウンドの右翼側にはモノレールが走っており、そっちに飛ばすのは”禁止”されていました。それもあって、逆方向に飛ばすにはどうしたらいいのか試行錯誤してきました。結果的にはそれが山本選手の持ち味となり、プロへの道に繋がったのでした。

「やり切った」と言える節目を迎えられなかったことで、”引退撤回”し、そこから開けたプロ野球への道。現在、未練が繋いでくれた舞台に立っています。

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▲明星大学時代の山本(本人提供)

“無知”は伸びしろの証

「強豪校でやってきていないから、野球偏差値低いんです。バッティングとかもずっと感覚だけでやってきたので。そこはまだまだ伸びしろですよね」と1軍で感じた自身の無知さ。でも、裏を返すと、非凡な能力に”野球脳”が付いてきたら…まだまだ化けるポテンシャルがあるということです。


これも「1軍でやれたから知れたこと。1軍でやっている時は『いい経験』と言われるのも悔しかった。でも2軍に落ちた今は、それを経験にして成長していかないといけないと思っています」と真っ直ぐに受け止めています。今まで以上に野球を知ろうと貪欲に向き合っている山本選手。痛感した悔しさを成長への肥やしにしてみせます。

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「今、日本のトップのところで野球をやっている」とプロ野球の舞台でプレー出来ていることを改めて噛み締めた山本選手は、「これからもここで野球をやっていく上でも、将来のためにも、残していかないといけない」と感じたことや学んだことをしっかりノートと心に書き留めていきます。

今の自分のためにも、未来のためにも、野球選手としてレベルアップすることを強く誓いました。

Writer /

上杉 あずさ『班長』