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信じたい覚醒…「ハモンドの真っ直ぐ好きなんです」

上杉あずさのスコアブック
公開日:2025.09.20
信じたい覚醒…「ハモンドの真っ直ぐ好きなんです」

あの衝撃が忘れられず、覚醒する未来を諦めきれないのです。

50人を超える育成選手を抱えるホークスには、ポテンシャルを秘めた若鷹がたくさんいます。ただ、ポテンシャルが高くても、それをプロ野球という舞台で発揮出来るのはほんのひと握り。

それでも、唯一無二の個性が光ると、その選手の未来を信じて追いかけてしまう。まさにそのワクワク感で、1年目から密かに応援し続けているのが、育成4年目のハモンド投手です。

2021年育成ドラフトで5巡目指名を受けて、愛媛の帝京第五高校からホークスに入団した右腕。柔らかくて長い手足から繰り出す伸びのあるストレートは魅力的です。

入団当初はなかなかその身体を使い切れておらず、球速は130キロ前後に留まることもありました。ただ、バチンとハマった時の直球の威力は一度見たら心を奪われました。ハモンド投手に夢を託したい気持ちを勝手に温めてきて、4年目になります。

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ハモンドの変化と進化

昨オフ、筑後で黙々と練習する姿が目に留まりました。明らかに、これまで以上に強い意志を感じました。3年目の昨季は「いろいろと良くなくて、危機感がありました」ともがき、焦りや危機感を抱いたシーズンでした。高卒4年目となると、大学4年生のドラフト候補たちと比較されます。今年にかける思いを行動でも示してきたつもりでした。

すると、4月の3軍戦で自己最速となる151キロをマークしました。さらには3者連続三振という衝撃のパフォーマンス。オフからの取り組みが1つ成果として表れた瞬間だと思うと、こちらも嬉しくなりました。ハモンド投手自身も、照れくさそうにしながらも手応えを感じ、笑みを浮かべました。

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良いパフォーマンスを発揮しても、大事なのは「継続すること」とハモンド投手は気を引き締めていました。しかし、結果を出し続けることこそが難しい世界です。7月頃から急に上手くいかなくなったといいます。「どうしたらいいか分からなくなって…」と悩みました。

その後、1か月ほど試合から離れる期間を設けてもらいました。制球面などを見直し、練習を重ねました。悩んでいる様子はヒシヒシと伝わってきました。ある時、声を掛けると「モヤモヤしかないです。悔しいです。上手くいかなくて…」と唇を噛みました。

決して饒舌なタイプではありません。取材をしていても口数は多くありませんが、そんなハモンド投手が会話の中でここまで悔しさをあらわにしたのも初めてだったと思います。本気で今年にかけてやってきた証だとも感じました。

成長見せたマウンド、吐き出した感情

ハモンド投手は8月後半の3軍関東遠征に途中から参戦しました。9月3日のジャイアンツ戦で、3番手としてマウンドに上がりました。

すると、投球練習でバックネットに突き刺すような球を投げてしまいました。ある選手が「キャッチャー3人分じゃん」と表現するような”大暴投”から始まり、不安もよぎる中、1人目の打者と対戦。

ボール、ボール、ボールで、いきなり3ボール。しかし、そこからハモンド投手は吹っ切れたようにストライクゾーンに思いっきり投げ込み、ファウルで粘られるも、8球目で左飛に打ち取りました。2人目からは空振り三振!ベンチからも歓声が上がりました。3人目は再び3ボールスタートとなりましたが、遊ゴロに抑え、結局1回無安打無失点。四死球0でした。

感情を吐き出すように吠え、安堵の笑みを浮かべたハモンド投手。いつの間にか感情移入しすぎていて、見ているこちらも涙が出てきました。

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ハモンド投手はこの登板を「『また3ボールか』と思ったけど、『こんなもんでしょ。練習通りだな』と思って、逆に切り替えられました」と振り返りました。”割り切り”が出来るようになったのも精神的成長ではないでしょうか。

「投球の感覚がなくなっていたので、(試合から離れた期間で)いろいろ試してきたけど、結局ハマるものがなくて。そんな中での登板でした。不安というよりは吹っ切れたというか、悩んでいてもしょうがないと。四球出さなかったのは粘れてよかったけど、投球内容は練習通りでしかなかったですから」とある意味、自分の現在地を冷静に受け止めたハモンド投手。実力以上のもの、練習で出来ないことは試合で出ないんだということを真摯に受け止めていました。

「ハモンドの真っ直ぐ好きなんです」

寺原隼人3軍投手コーチ(チーフ)は、「ブルペンから調子は良かったんです。四球出すこともあるかもしれないけど、ボール自体は悪くないし、こっちは心配はしてないですよ」と見守っていました。

さらに、「ハモンドは人よりエクステンション長いし、前で放せる独特なフォームを持っている。アイツのボールは空振りの取れる真っ直ぐが最大の特徴。僕は結構、ハモンドの真っ直ぐ好きなんです。ゾーンに行けば、そんな簡単に打たれるようなボールじゃない。でも、そこがアイツの課題でもある。今日みたいに粘って粘って、不利なカウントにしても粘ってっていうのを続けていけば、どんどん感覚も掴めてくるんじゃないですか。あそこで四球出すか出さないかで全然違う。1球で意味が全く変わってくる。今日は良かったんじゃないですか」と語りました。

本人も”内容”には納得していませんが、寺原投手コーチはその状況から粘れたことを評価。こういう経験を重ねる中で、何かを掴む可能性があるのでしょう。プロ野球の世界、悠長なことを言っていられないかもしれませんが、高いポテンシャルが花開くには、こうした1つの経験を軽視せず、大切に見守る必要もあるのかなと感じます。

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ハモンド投手のポテンシャルを評価する人は少なくありません。R&Dグループ投手担当の川原弘之さんも「僕もハモンドの真っ直ぐ好きです。リリースポイントが低くて前で放せるのが特徴。あれだけ前でリリース出来る人は、少なくとも3、4軍には他にいないです。高めで空振りが取れるのは貴重ですし、異質な真っ直ぐ。なかなかいないですね。あれを安定的に投げられるようになったら武器になります」と言います。さらに、「気持ちの浮き沈みはあるけど、頑張れる子。キッカケ1つで変われるんじゃないかな。この時期、踏ん張れるかどうか…」と期待を込めます。現役時代、度重なる故障にも苦しみ、育成も経験した元左腕の言葉には深みがあります。

育成4年目のシーズンがまもなく終わりますが、心身共にこの時期いかに踏ん張れるかーー。未来を切り開く上で、大切な時期とも言えるでしょう。

若田部健一1軍投手コーチが3軍を担当していた頃、「注目は誰?」と”逆取材”されたことがありました。私がハモンド投手の名前を挙げると、「良いところに目を付けたね。化けるかもしれないよ」と言ってくれたことを今でも忘れていません。期待を寄せてくれたコーチに、ハモンド投手も「若さんに良いところを見せたい」と度々口にしてきました。

ハモンド投手には夢がある。”ハモンドを諦めない”気持ちは4年間、1度も消えませんでした。花開く姿を信じ、見守りたいのです。

Writer /

上杉 あずさ『班長』