「今日でラストキャッチボールだな」
お世話になった大好きな先輩からの一言に胸がキュッとしました。
宮﨑颯投手が思いを馳せたのは、9月30日に球団から来季の選手契約を締結しないことが発表された又吉克樹投手のことでした。
今季、ずっと共にしてきたキャッチボールーー。宮﨑投手は寂しそうに振り返ります。
「いろんなことを教わってきました。僕に中継ぎとして足りないこと、選手として足りないことをキャッチボールや普段の会話の中で教えて頂きました」
日々のキャッチボールでたくさん”会話”し、学ばせてくれた先輩でした。

又吉投手はホークスでの最後の練習前、早出練習中にウエートルームで顔を合わせた宮﨑投手にこう声をかけました。
「今日でラストキャッチボールだな」
宮﨑投手は「何の事ですか?」と困惑。ことを察すると、様々な思いを巡らせながらも、覚悟を決めて”最後のキャッチボール”を噛み締めました。
「『これからはもう又吉さんに確認できないんだ』と思って。『いつもこう言われてたよな』って考えながらやりました。いつも以上にその日のキャッチボールを大切にしました。もう一緒に出来るか分からないので」
寂しさは当然抱きながらも、宮﨑投手は「これなら大丈夫だなと思わせたかった」と”最後のキャッチボール”に力を込めました。
自ら飛び込んだ又吉塾
2人がキャッチボールを共にするようになったのは、今年6月頃から。宮﨑投手が「又吉さん、キャッチボールして下さい」とお願いしたことから始まりました。
「あれだけ中継ぎで活躍されて、500イニング投げている実績ある中継ぎピッチャーが近くにいるなら、自分が上手くなるために何か盗むしかないなと思って近付きました」と頷きます。宮﨑投手の向上心に又吉投手も優しく応えてくれました。
「いろんな話をして、いろんなことを教わりましたけど、1番記憶に残ってるのは、行動で見せてくれるキャッチボールの1球1球。こうやらないといけないんだぞっていうのを身体で見せてくれていました」
宮﨑投手は又吉投手のキャッチボールの1球1球に語らずとも”言葉”を感じてきました。まさにキャッチボールが”会話”でした。
又吉投手と過ごす中で多くの手応えを得ながら、試合で結果を残し続けた宮﨑投手。7月25日には、念願の支配下登録を掴み、1軍デビューを果たしました。
その後、再び2軍に降格した宮﨑投手ですが、やはり又吉投手を求め、「もう1回キャッチボールお願いします!見てください」とお願いし、最後まで”相棒”を務めて貰いました。宮﨑投手の今季の成長になくてはならない存在でした。

又吉投手が教えてくれたプロ野球選手としての在り方
又吉投手はグラウンドを離れても、可愛がってくれた先輩。食事に連れていって貰った時も、ずっと野球の話でした。宮﨑投手は、「又吉さんもお酒飲んだら野球小僧って感じで、野球のことを熱く語ってくれます。僕だからなのかもしれないけど、本当に野球好きなんだなと思います」と笑みを浮かべます。
支配下登録された際には、又吉投手に財布をプレゼントされました。その中には、『心ぶれず、芯ぶれず』という言葉が書かれた手紙が入っていました。この言葉を胸に刻み、今も日々を全力で過ごしています。
もう1つ、又吉投手に言われて印象に残っていることがあります。宮﨑投手はトミー・ジョン手術からの復帰過程で、投げ方が分からなくなったり、ボールを握ることさえ怖くなり、手が震えるなどの症状に悩まされた時期がありました。
いわゆる、”イップス”という言葉を発するのは躊躇われますが、又吉投手はプロ野球選手としての在り方も教えてくれました。
「そういうの言った方がいいよ。お前がそれを克服したことを言ったら、救われる人がいるかもしれないから。それで誰かを救えるようにならなきゃダメだぞ、選手としても人としても。『アイツはイップスから這い上がってきたんだ』って。そういう選手としてしっかりやっていけよ」
技術面だけでなく、プロ野球選手としての在り方など、多くのことを教えてくれた師匠でした。

又吉投手は現役続行を希望しています。宮﨑投手は「次は対戦相手として投げあえるように。成長した姿を見せられるように。又吉さんの言葉を胸に」と力強く語りました。
宮﨑投手自身、厳しい世界であることは身に染みて感じています。「去年もそうでしたけど、お世話になった人たちが居なくなる世界なので。教わったことを1つでも自分のものに出来るように、いつかその人たちを超せるように頑張っていきたいです」と決意を込めました。
「また動画撮ったら送っていいですか?」
「時間あったらまたご飯連れてってください」
宮﨑投手は名残惜しさと共に、改めて、又吉投手への感謝を込めました。
私からも伝えさせて下さい。いつも取材でお声掛けすると、快く対応して下さいました。又吉投手、若鷹たちに熱く優しい素敵な背中を見せてくれて、本当にありがとうございました。これからも応援しています。(上杉あずさ)