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森唯斗は「みんなの兄貴」…忘れられない”優勝”の記憶

上杉あずさのスコアブック
公開日:2025.09.30
森唯斗は「みんなの兄貴」…忘れられない"優勝"の記憶

9月20日、横浜DeNAベイスターズの森唯斗投手が現役引退を発表しました。2013年ドラフト2位で社会人の三菱自動車倉敷オーシャンズからホークスに入団した右腕は、ルーキーイヤーから7年連続50試合以上に登板しました。2018年は絶対的守護神だったデニス・サファテ投手の離脱を受けてクローザーになると、最多セーブ投手のタイトルを獲得。そこから3年連続30セーブ以上の成績で、4度のリーグ優勝、6度の日本一に貢献しました。

そんな数々の功績を残してきた豪腕がユニフォームを脱ぐ決断をしました。


ホークス最終年となった2023年シーズン。2軍暮らしが長くなり、森投手としては不本意だったはずですが、若鷹たちの兄貴的存在としてファームを盛り上げ、頼りになる姿が強く印象に残っています。

森投手を慕う選手は多くいましたが、中でも、入団時から”師匠”と共に腕を振ってきた奥村政稔3軍ファーム投手コーチが、しみじみと思いを語ってくれました。

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覚悟していた師匠の決断

引退発表の2週間ほど前に電話で報告を受けたという奥村コーチは寂しそうに振り返ります。

「『引退するわぁ』って言われて、正直『マジっすか?』とはならなかったですけど、この前(8/28 阪神戦)勝ったじゃないですか!だから、もう1回見たかったなというのはありましたね」

8月28日の阪神戦(横浜スタジアム)で今季初先発。5回2失点で今季初勝利を挙げ、お立ち台にも上がった姿は、もちろん福岡から見守っていました。


ただ、プロ野球の世界で厳しい現実を肌で感じてきたからこその本音もこぼれます。

「俺らの年齢になったら、毎年毎年、この人今年危ないなとかいろいろあるじゃないですか。自分も、森さんは去年でさえ覚悟していた部分もあったし。だから、今年も森さんが投げる時は必ずチェックしてましたし、勝手に覚悟してました」

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切磋琢磨した”ガッツ系”師弟コンビ

2018年ドラフト7位で社会人の三菱日立パワーシステムズからホークスに入団した奥村コーチ。「1番最初に話しかけてくれたのが森さんでした」と振り返るのは、ドラフト後、新入団選手が秋季キャンプ見学に行った時のことでした。森投手が気さくに声を掛けてくれたことがキッカケで、他の先輩たちとの親交もすぐに深まりました。

森投手と自主トレも共にした奥村コーチ。気迫のこもった投球スタイルや熱いメンタリティも似ている2人。奥村コーチも「たしかに。ガッツ系で。困ったら気持ちで、みたいなタイプですね」と笑います。ただ、「自分はずっとライバルだと思っていたので」と切磋琢磨しながらも、背中を追い続けた存在でした。


「やっぱりあの人が気持ち出してくれたら、若手は士気が上がる。そういうピッチャーって大事。(やるべきことを)やってきてる人。存在は大きかったですよ」

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「小久保さん胴上げしようや」でやり切った選手生活

1番の思い出を問うと、「大した思い出はないです」と笑い飛ばしました。2022年9月には、奥村コーチが1軍で先発し、2番手が森投手という”師弟リレー”が実現しました。胸が熱くなる2人の継投でしたが、奥村コーチがそれ以上に心に残っていたのは、2年前のウエスタン・リーグ優勝でした。


「そっちの方が最後の年だったし、『(当時2軍監督の)小久保(裕紀)さん胴上げしようや』ってみんなで盛り上がって」と懐かしがります。


本来、選手育成の場でもある2軍の優勝は1軍と違って、それが最終目的ではありません。ただ、この年の2軍は異様な盛り上がりを見せていました。

翌年から”1軍昇格”が噂されていた小久保2軍監督の最終年。そして、同年オフにチームを去ることになる森投手と奥村コーチ。それぞれ察する思いや覚悟もあったのでしょう。みんなで1つになって”優勝”を強烈に意識しました。ベテランから若手まで、「優勝するぞ」という気持ちを1つに束ね、輪の中心にいたのが森投手でした。そして、奥村コーチも師匠と共に若手を鼓舞して盛り上げました。

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「自分もその年に戦力外になりました。育成選手だったので7月31日過ぎたら分かるじゃないですか。今年でダメなんやろうなって。でも、『小久保さんを胴上げしようや』って2軍みんなで一致団結して、それがモチベーションになった。1軍でやったことより印象に残ってますね」

奥村コーチはウエスタン優勝を決めた6日後、ファーム日本選手権出場を前に”戦力外通告”を受けました。最後のファーム日本一までみんなとユニフォームを着てプレーしたかった思いは当然ありましたが、すんなり引退を決断できたのも、一致団結して優勝を目指したかけがえのない時間があったから。「やりきった」と心から思えた”優勝”でした。

ファーム選手権は小久保監督に呼ばれて応援に駆けつけ、監督の次に胴上げもされた奥村コーチ。「いい勝ち方しましたもんね。最高の思い出です。その日の夜もみんなで飲み会して、小久保さんの誕生日会して、楽しかったです」と大切な思い出を振り返ります。

森投手の存在を改めて問うと、「やっぱ影響力ありますよね。下の話も聞いてくれる。警察じゃないけど(笑)悪いやつは取り締まるし、ちゃんとしとるやつには優しいし、ホントみんなの兄貴って感じです」と表現しました。


「とりあえずゆっくりしてくださいって伝えました。今度ゴルフも行く予定だし、そこでゆっくり話そうも思います」と笑みを浮かべた奥村コーチでした。

ベイスターズは森投手の引退セレモニーを今日、9月30日の試合終了後に開催することを発表しています。既に引退会見やファームでの”ラスト登板”を終えていますが、横浜に在籍したのは2シーズンでも、多くの後輩たちに慕われていたのが様々なところから伝わってきました。

みんなの兄貴、森唯斗投手。
改めまして、12年間の現役生活お疲れ様でした。

Writer /

上杉 あずさ『班長』