「悔いても悔いても悔いきれない」
そう言葉を振り絞ったのは笹川吉康選手。目指し続けてきた悲願の開幕1軍入りを、「あの1球で」「あと1アウトで」失ってしまいました。
プロ6年目、強く掲げていた「1年間ずっと1軍に居続ける」という目標。「そこにかけてきた」というほど欲しくて欲しくてたまらなかったものを、自らのミスで手放してしまったのです。
3月22日、広島東洋カープとのオープン戦——。
笹川選手は3回から右翼の守備に就いていました。5-4と1点リードの最終回、2死一塁で打球は右翼へ。シングル安打、と思われた当たりでした。しかし、打球は笹川選手のグラブの下をすり抜けて…。無情にも一塁走者は生還し、オープン戦最終戦の勝利も、自身の開幕1軍も消えてなくなりました。
試合後の囲み取材で、小久保裕紀監督は「プロとしてお恥ずかしいです。笹川はファームです。今日の最後のプレー」と語り、あのプレーで開幕1軍が白紙になったことを各スポーツ紙が報じました。
その日、なかなかマツダスタジアムから帰れなかったという笹川選手。
「あとアウト1つで開幕1軍だったのに。ここでなにやってるんだ」
当然、ショックは重くのしかかり、悔しさが溢れました。

救われた”認めてくれる存在”
24日からは2軍遠征先の由宇に合流。「もう1回、頑張るしかない」と前を向こうと努めながらも、なかなか心は晴れません。その時ばかりは、誰とも会話することが出来ないほど、ふさぎ込んでいました。
27日、本拠地・タマスタ筑後に戻ってきてからは、だいぶ心も落ち着きを取り戻しました。励みになったのは、認めてくれた斉藤和巳2軍監督の存在。
「姿は変わってきている。去年までとは違うから、継続して頑張れ」
自分を責めて責めて仕方がなかった時、自身の成長を認めてくれる指揮官の言葉に救われました。
斉藤2軍監督は「もちろん、まだまだやけど、アイツの中では大きく変化している。2軍に落ちてきてからもそれはすごく感じる。いろいろ出来るようになったなと思うよ。でも、この世界で生き残っていくのは簡単じゃないから、もっともっと小さなことも頑張れる選手にならないとね」と笹川選手の小さな成長も見逃さず、認めながらも、熱い”喝”を入れました。

昨秋のみやざきフェニックス・リーグでのこと。日本シリーズへ強い思いを抱いていた中で出場が叶わず、笹川選手は宮崎にいました。なかなか気持ちを切り替えられず、気持ちの入っていない姿を見せたことがありました。
すると、斉藤2軍監督から呼び出しを受けました。2人で約1時間、じっくり話をしたといいます。
「後ろからの選手でもチャンス貰って頑張ろうや」という言葉は、今季の笹川選手の意識に大きな影響を及ぼしました。

「ギータ2世」と言われてきたように、持ち味はあのフルスイング。打撃でアピールすることばかり考えてきましたが、今年の笹川選手は違いました。「スタメンの可能性も最後まで諦めないし、スタメン取るつもりでアピールするけど、その結果、後ろからでもいける選手になる」とオープン戦中も、守備への意欲を語っていました。彼なりに、打撃と守備走塁の練習バランスを考えながら、アピールしようと意気込んでいました。
だからこそ、あのミスが痛いほど突き刺さったのです。まだまだ強い気持ちでやらなければならないことを痛感しました。
「悔しい」という言葉だけでは表しきれない出来事でしたが、笹川選手は自身の野球人生に「これじゃダメなんだというメッセージだったのかな」と真っ直ぐ受け止めました。
感情論で終わらせず、同じ失敗を繰り返さないためにも、これまでのプレースタイルを見直しています。井出竜也コーディネーター(野手)とも話をしながら、外野手としての成長を誓います。

背中を押された首脳陣からの鼓舞
“あの日”の試合後──。
笹川選手は厳しい叱責で突き放されるのではなく、むしろ首脳陣に背中を押されました。
怒りというよりは、失った現実を共に悔しがってくれたという小久保監督。「しっかりファームでやっとけよ」と送り出されました。1軍のコーチ陣も笹川選手の気持ちを察し、あの日、様々な優しい声を掛けてくれたといいます。首脳陣からの期待を改めて身に染みて感じた笹川選手は、胸が締め付けられる思いでした。
この悔しい出来事を、ただでは終わらせません。

笹川選手を見ていると、小久保監督がよく口にされる『人生はネタづくり』という言葉が脳裏に浮かびました。
いつかホークスを背負って立つような大きな選手になって、”あの日”のことも笑って振り返れる日が来ますように──。
「手のかかる子ほどかわいい」とはよく言ったものです。決して優等生ではないし、ぶっきらぼうに見えてしまいかねない部分もある笹川選手。でも、心の中に秘める熱くて真っ直ぐなものがあるから、笹川選手の成長を信じたいのです。
この悔しさを糧に、もっともっと大きく成長してくれることを願っています。
