“最後”のユニフォーム姿で腕を振りました。
3月に受けたトミー・ジョン手術からの復帰をめざし、リハビリを続ける長谷川威展投手が、秋季練習最終日の練習前に呟きました。
「このユニフォームでやるの、今日で最後だ」
同手術は復帰までに長い期間を要するため、来季は育成契約に。つまり、現役ドラフトで加入後、2シーズン背負ってきた『59』の背番号で練習するのはこの日が最後でした。

術後、約8か月のリハビリ生活は、ジャージー姿で練習することがほとんどでした。長谷川投手は「ユニフォーム自体、着るのも半年ぶりです。身が引き締まるのもありましたし、野球したいなと思いましたね」と胸が高鳴りました。普段より表情も明るく見えました。
この日は、約20mの距離でのキャッチボール。5〜6割の力感でも、力強さを増していました。また、ブルペンで傾斜を使ってシャドーピッチングも行いました。「こういう風に投げたいなっていうのを頭の中でイメージしながら。モヤっとしたままやるよりは、こんなフォーム、こんな球筋で投げたいなとイメージして」と1回、1回、じっくり確認しながら腕を振りました。


愛着が生まれた背番号も、全ては運命
トミー・ジョン手術からの復帰は大変な道のり。そんな中で、仕方のないこととはいえ、1度支配下契約を外れ、来季は背番号が変わります。長谷川投手はその現実をどう感じているのでしょうか──。
「1番はレベルアップして戻りたい」
迷いなくそう答えました。「育成になっても、支配下でも、たぶん『明日はどういう意識で投げようかな』って考えていると思うし、育成になったから、より一層気合いを入れるとかはないですね。たしかに、支配下になるという1つ段階を踏まないといけないから、険しい道のりにはなると思うけど、自分が良い球を投げていればまた1軍で投げられると思うので、変わることなくやっていきます」と冷静に現実を見ていました。
ただ、「愛着は出てくるもので、意外と。別にこだわりとかは全くないですけど、貰った運命的なものはあるじゃないですか。みんな(自分の背番号を)好きになっていくんじゃないですか?ずっと近くにいると」と2年背負った『59』への思いを口にしました。

「59が空いていたら戻ればいいし、空いてなかったら新しい番号を貰えればいいし、それは運命なので」
『59』での最後の練習に感慨深さもありましたが、決してこだわるのはそこではありません。
「今は野球が上手くなりたいというか。しんどいことも多いですけど、1軍のマウンドで投げるとか、ファンの人や身近な応援してくれる人にいい姿を見せたいというのももちろんあるし、今は野球が上手くなりたいという思いが強いです」

“自分らしく”向き合うリハビリ生活
再び1軍のマウンドに立つために、懸命にリハビリを続けています。
とはいえ、根気が必要なリハビリ生活。自身との戦いでもある日々を、長谷川投手は”自分らしく”向き合っています。
「どちらかというと、『もう1回マウンドに立つんだ』って意気込んでやるタイプではなく、僕は結構だらしない性格なので(笑)最初にやらない理由を探すんですよ。たまに『今日はいいかな』と思ってしまう日もありますけど…ランニングだったら、走らない理由を毎日探すんですけど、見つからないんですよ。めんどくさいもキツイも理由にならない。だから、結局やるんです(笑)」
ある意味、メンタルを保つための上手な向き合い方のように感じます。自分の性格を1番知っているのは自分自身なのです。
長谷川投手が考え方の面で影響を受けたのは1冊の本でした。それは、『人生を変えるモーニングメソッド』。
この本を読んで、意識も変わり、朝型の人間になったといいます。練習前の朝の時間を有効活用するようになり、1日の充実度も上がったそうです。
長谷川投手がハッとした一文がありました。
「やらない理由を探すのと似たような意味なんですけど、『今のままの人生なのか、今やるのか、どっちが嫌なんだ?』とサラッと書いてあって。その一文が心に刺さりました。今のままの方が嫌だなと思って、自己啓発されました」
リハビリ生活を送る中で、ハマった読書。自身の生活や考え方にも大きな影響を与えてくれたのでした。
長いリハビリ、支配下契約解除、育成再契約……。気持ちが落ちても仕方のない日々も、全て自分らしく受け止めた長谷川投手。
長谷川投手と運命を共にする新しい背番号も、共に受け止め、復活への道のりを見守ってくれることでしょう。心身共に強く逞しくなり、深みを増している左腕の復活がさらに楽しみになりました。
