中村晃選手が通算1500安打を放った日の夜のことーー。
2軍は静岡でくふうハヤテとのナイトゲーム。試合後、中村選手の偉業達成を知り、部屋に帰ってその映像をひたすら見ていたというのが佐藤航太選手です。
「僕も安打製造機になりたい」と秘める熱い思いを胸に、時折バットを振りながら動画に見入っていると、気が付けば時計の針は午前3時を回っていました。
「本を頂いたこともあるので」と佐藤航選手。今年の春先、中村選手が寮生にプレゼントしてくれた本との出会いが自身の背中を押してくれた背景もあり、より一層、先輩のことを意識するようになっていました。改めて感じた、「こんな選手になりたい」という思い。現在地は決して満足いく場所ではないけれど、決意を強くした瞬間でもありました。

チャンスがピンチに…見失った自分
「今年は自分を見失っていました」と振り返る佐藤航選手。結果を求めるあまり、本来の持ち味さえも発揮出来なくなっていました。
昨年8月に高卒2年目の育成選手ながら、ファーム月間MVPを獲得する”衝撃デビュー”で周囲の期待はうなぎのぼり。今春キャンプではA組に大抜てきされ、1軍選手たちと共に練習する貴重な時間を過ごしました。しかし、キャンプ途中の体調不良でそのまま”降格”。小久保裕紀監督も「そういう世界」と厳しいコメントでした。
佐藤航選手は「悔しすぎて、その日は部屋に引きこもってしまって。でも、家族に『まだ始まったばかりでしょ。支配下は遠くなったかもしれないけど、ここからでしょ!』って言われて、自分のことぶん殴ってすぐに切り替えました」と振り返りました。
悔しいだけには終わらせません。佐藤航選手は自ら小久保監督のもとへ足を運び、「僕に求めていることってなんですか?」と”突撃取材”しました。
降格を受け止め、「どんなバッターになって欲しいのか聞きたくて」と迷うでも緊張するでもなく、真っ直ぐに指揮官にアプローチ。すると、「率を残して欲しい」と言われたといいます。指揮官は「タイミングとるのが上手いのは分かっている。映像は見てるから」と言ってくれました。育成まで含めて多くの選手を抱えるホークスで、1軍監督が見てくれているーー。それだけでも熱くなるものがありました。
1軍から3軍”降格”ーー痛感した「継続」の大切さ
第一線からは離脱しましたが、その言葉を励みに、再び上を目指しました。しかし、簡単にはいかないのがプロの世界。2軍でも結果を残せず、気が付けばシーズンのほとんどを3軍で過ごしていました。折れそうになったことも多々ありました。それでも、もがいて、信じて、食らいついてきました。

すると、8月中旬、約3か月ぶりに2軍”昇格”のチャンスを得ました。斉藤和巳3軍監督には「もう顔見せんなよ」と送り出されました。
佐藤航選手は斉藤3軍監督のことを「レジェンドだし、立場的には監督だけど、相談しやすい人です。いいことはいい、ダメなことはダメだとハッキリ言ってくれるし、自分と向き合ってくれるんです」と慕います。そんな指揮官には「継続することを継続しなさい」と伝えられました。結果が出ても出なくても、”継続”することを今一度、肝に銘じたのでした。

2軍に合流して以降、限られた出場機会で食らいつこうと必死です。「今はせっかく2軍でチャンスを貰っているので。もちろん結果もめちゃくちゃ欲しいけど、来年も残れるように⋯」と佐藤航選手。
結果を求め過ぎると、また自分を見失ってしまうかもしれないーー。春先に痛感した教訓を胸に、来年に期待をして貰えるような姿を見せなければ、この世界には残れないのだと危機感を感じています。求められている自分の姿、持ち味を追求し、やり続けること。「ダメでも良くても続けること」と言葉にした佐藤航選手。斉藤3軍にも言われたことですし、憧れる中村晃選手の偉業も”継続”の賜物でした。
1軍から3軍までジェットコースターのような1年を戦ってきましたが、もう失うものはありません。憧れの先輩の姿に刺激を受け、背中を押してくれる指揮官たちの言葉を胸に、もう一度”衝撃”を与えるような活躍を…。
「僕も安打製造機になりたい」、その思いを強く持ち続けて欲しいです。
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