垣間見えた、笑顔の奥にある確かな強さ。これがエースたる所以──。
エース左腕に突然投げかけられた、あまりに強烈な”金言”が岩井俊介投手の胸に刺さりました。
右内転筋を痛めてリハビリ調整となっていた岩井投手。4月21日のBCリーグ・神奈川フューチャードリームスとの3軍戦(バッティングパレス相石スタジアムひらつか)で実戦復帰しました。6回のマウンドに上がると、1回無安打無失点。1つ三振を奪い、最速は151キロでした。
3月6日、阪神とのオープン戦(甲子園)で、6回に2番手としてマウンドに上がった岩井投手。先頭打者を三ゴロに打ち取りましたが、「1人目の時にちぎれて…」と右内転筋を負傷。連打と四球などで1点を失うも、その回を何とか投げ切りました。
「隠したかったけど、明らかに無理過ぎて…」と試合後、無念の離脱が決まりました。
開幕1軍ならず、岩井投手の姿は筑後のリハビリ組に。気持ちを切り替えて、前向きにリハビリやトレーニングに取り組みました。
約1か月のリハビリ生活では、周囲の人々が度々気に掛けてくれました。励ましてくれたり、喝を入れてくれたり、岩井投手は様々な声に奮い立たされました。

エースから”直球”の疑問と叱咤
中でも、鷹のエースから受けた突然の強烈な”指摘”は、岩井投手の胸に強く刺さりました。
「他の誰かにマウンド立たれて、嫌じゃないのか?」
その声の主は、リバン・モイネロ投手。WBC後、母国の情勢不安などの影響で来日が遅れていたエース左腕が、調整のために筑後を訪れた時のことです。通訳を交えて、会話する機会がありました。
「そんなに球が強いのに、1軍と2軍を行ったり来たりしているのはなぜ?今、筑後にいることに対して何を思っているの?」
モイネロ投手は岩井投手に”直球”で投げ掛けました。

その”真意”をモイネロ投手に伺いました。
すると、「『今1軍にいるピッチャーと比べても、(岩井には)いいボールがあるのに、なぜ2軍にいるんですか?』という質問をしました」と熱を込めました。
そこから、左腕は自身が21歳で来日した時のことを、岩井投手に向けて語りました。
「まず、僕が日本に来た時は、このチームの中で1番スゴい人を探したよ。その人に勝てるように、毎日努力する。当時は、嘉弥真(新也)がいました。『この人に勝つためにはどうしたらいいんだろう』って考えて、『そうだ!3人連続で三振を取る事だ』と思っていっぱい練習したよ」
“スゴい”と思う人を、単に目標としたのではありません。「その人たちを押し退けていかないと、自分が投げられないわけじゃないですか」とモイネロ投手は日本で自らの城を築くために、考えて考えて、強い気持ちで努力を重ねてきたのです。
そんな思いを胸に異国の地で挑戦し続け、ホークスのエース、日本球界トップクラスの投手へと上り詰めたモイネロ投手。だからこそ、高いポテンシャルを持ちながらも、殻を破りきれていない後輩右腕に首を傾げたのです。
ライバルたちを押し退ける──。
「そのメンタリティがお前にはないだろ?(他の投手も)チームメイトであることには変わりないけど、その人より良いピッチャーにならないといけないわけだから。岩井はどう思っているの?そもそも筑後にいることを当たり前だと思うなよ」
強烈な言葉にハッとした岩井投手。
明るく陽気な愛されキャラは彼の魅力でもありますが、チームメイトであっても、全員がライバル。自身の城を築くためのメンタリティが足りていないのではないか──。そんな指摘を真っ直ぐに受け止め、自分の心を見つめました。
振り返ると、数々の後悔を口にした岩井投手。強い自分になるため、心の底から自信を持ってマウンドに立つために、「もうやさしくならない」と自らに言い聞かせました。
さらに、岩井投手は左腕からの言葉を明かします。
「『金を取られた気分になれ』とも言われました。マウンドが僕の居場所じゃないですか。でも、今はその大切な場所を取られている。『お前は金を取られているんだよ。取り返しにいけよ!』『大切なものを取られているんだよ』って」
いつも優しくて愛嬌たっぷりのモイネロ投手から飛んできた、”愛ある檄”でした。

そんな大切な言葉を伝えてくれたのは、きっと岩井投手のポテンシャルを認めているからこそ。
こんなにも熱く厳しく愛ある喝を受け止めたのだから、殻をぶち破るようなシーズンにしてくれるはず。怪我で苦しいスタートとなりましたが、心身共にパワーアップした姿で、”大切な居場所”を取り返しにいきます。
