若鷹の「いま」に会える場所

若鷹応援メディア Bambies

「俺は復帰出来なかった」…川口冬弥が背中を押された”偉大な背中”

上杉あずさのスコアブック
公開日:2026.04.04

「お前の気持ち、俺は少しは分かってあげられると思ってるからな」

突如触れた温かい言葉に背中を押されました。

腰椎分離症で昨秋からリハビリを続けてきた川口冬弥投手。12月頃、右肩にも痛みが生じましたが、春季キャンプ中にはブルペン投球を再開。しかし、復帰戦の目処も立ち、光が見えてきた時でした。今度は右肘痛で再び後退。復帰目前のリハビリ戻りは、正直堪えました。

そんな時、寄り添ってくれたのが斉藤和巳2軍監督でした。

「元気か?」
「…元気です」

突然、声を掛けてくれた指揮官に、ちょっぴり戸惑った返事になってしまいました。すると、斉藤2軍監督は聞き過ごしませんでした。

「今、間があった。ちょっと来い」

そう言って、川口投手を熱く激励してくれたのです。

斉藤2軍監督は「しんどいやろうなと思ってね。支配下にやっとなったと思ったらまた育成になって、もう一度頑張ろうって時に怪我で苦しんで。リハビリから復帰しようとしたら、また元に戻って。俺もそれは経験してるからね。気にはなってたんよ。リハビリ組とは時間的になかなか会うことがなかったけど、ちょうどおったから」と”兄貴肌”を覗かせ、自身の経験談などを川口投手に話したといいます。

自分を信じることの大切さ

「あの日、お前はここでもう1回勝負することを決めたんだろ?あの時の自分を信じてあげないと」

斉藤2軍監督は川口投手に力強く訴えかけました。

開幕から必死に腕を振り続け、プロ1年目の6月に支配下登録を勝ち取った右腕。しかし、シーズンオフに早すぎる”戦力外通告”。大きなショックで人生の岐路に立たされましたが、ホークスと再び育成契約を結び、もう一度、這い上がる決意をしました。

「お前がやりたいって契約したんやろ?そこは自分の決断に責任を持ってやらな。悩んで悩んで悩み抜いて、またホークスで頑張ろうって決めたんやろ?それなら自分の決断に責任持たな。自分を裏切ったらアカンよ」と斉藤2軍監督。

どんなに苦しい現実と向き合っているとしても、自分で選んだ道。決断したことへの”責任”と、その時の自分を信じてあげること──。プロとしての大先輩の言葉には重みがありました。

そして、「お前の気持ち、俺は少しは分かってあげられると思ってるからな」と寄り添ってくれるのは、斉藤2軍監督自身、現役時代に長い長いリハビリを経験してきたから。

「俺もしんどい時ほど、自分で自分を裏切りたくないと思ってやってきて、結局リハビリ6年、頑張ったよ」と思い返します。

斉藤2軍監督は、1995年ドラフト1位で当時の福岡ダイエーホークスに入団。数々の名勝負を見せ、輝かしい栄光も手にした右腕は、”投手4冠”、2度目の沢村賞を受賞するなど躍動した2006年シーズンを最後に、苦しいプロ野球生活を送りました。2008年と2010年に右肩の手術。2011年には支配下選手登録を外れ、コーチ契約を結びながら、復帰を目指してリハビリを続けました。ところが、マウンドに帰ることは出来ず、2013年7月末に現役引退。

「俺は復帰出来なかったから。乗り越えられていないけどね。俺ほどの大きな怪我じゃないから、川口にはまだ可能性はある」と斉藤2軍監督は優しい声でエールを送りました。

「和巳さんだって、当然落ち込むこともあったし、元気ない時もあったんですよね…。立ち上げの時が1番難しいし、僕も(肘を痛めたのは)復帰直前だった。『3歩進んで2歩下がっても1歩は進んでるからOKや。目の前の小さい喜びを重ねていかないと』って言ってもらいました」と川口投手。想像を絶するような長いリハビリを戦ってきた指揮官の言葉は、痛いほど心に響きました。

それからは、川口投手も前向きに、1つの喜びを大切にしながら、目の前のことに取り組めているようです。

ファンへの感謝と誓い

プレー出来ていない今だからこそ、応援してくれるファンのありがたみをより一層、感じています。

「リハビリ期間って試合している姿を見せられないのに、こんなにファンの方が来てくれているじゃないですか。野球選手としては何も還元出来ていないから、それでまた落ち込んじゃってたんですけど……もがいてるというか、上手くいっていない自分をちゃんと見せるのも、人間らしいのかなと。申し訳ないことには変わりないんですけど、どんな時も応援してくれる方々がいるのが嬉しい」

感謝と同時に、不甲斐ない自分も真っ直ぐに受け入れられるようになってきた川口投手。

「もう僕は挫けない」

強く自分を信じ、前だけを見ています。

現在はリハビリ組の管轄ながら、3軍に参加して練習中。この日は捕手を座らせてブルペン投球も行い、充実感が滲んでいました。

再び踏み出した復帰への一歩を、大切に前向きに歩んでいきます。

Writer /

上杉 あずさ『班長』

Pickup /

ピックアップ記事

Sponsor/

スポンサー

View More