1人の育成出身選手のプロ初登板が、こんなにも多くの若鷹を奮い立たせるのか──。そんな現実に胸が熱くなりました。
9日に支配下登録されたばかりの藤原大翔投手が、13日に本拠地でプロ初登板初先発を果たしました。
難攻不落のエース・高橋光成投手擁する埼玉西武ライオンズとの一戦で先発した藤原投手は、好投手相手に引けを取らない立ち上がり。初回から自慢の豪速球を連発。自己最速タイ156キロもマークするなど、三者凡退。2回は2者連続三振の快投。3回に安打と四球でピンチを背負うと、暴投と適時打で2失点。疲れが見え始めるも、4回も粘り強く投げ抜き、4回2安打2失点。プロ初黒星を喫しましたが、堂々たる初登板でした。
藤原投手は、「この試合のお陰で成長出来たと言えるようにレベルアップしていきたい」と力強く語りました。
そんな藤原投手のデビュー戦には、多くの”仲間”が駆け付けました。筆者の私が知っているだけでも、10人の若鷹が筑後から駆け付け、スタッフやコーチもその姿を見届けに来ていました。
もちろん、シーズン中のため、通常であれば、他の軍の試合を現地観戦に行くなど、なかなか叶わないもの。さらに、中継ぎだと”初登板”がいつ巡ってくるかは分かりません。それが、今回は本拠地での先発。ちょうど2軍は筑後で練習日、3軍も筑後で連戦中とあって、”舞台が整った”というのも、縁でしょうか。ここまで1人の選手の登板を先輩、後輩、同期が駆け付けるなんて、”引退試合”以外では聞いたことがありません。藤原投手が愛されている証でもありますが、決して、単に仲が良いだけではありませんでした。
選手たちは、それぞれ様々な思いでこの登板を見つめたのです。

同期入団で同い歳、良きライバルとして常に切磋琢磨してきた長水啓眞投手は、”相棒”のプロ初登板を迷うことなく観に行きました。
「そりゃ、悔しいですよ、もちろん。見とったら見とった分だけ悔しいけど、そんなん言ってられない。これもいい経験です」と語ります。現地で”悔しさ”を感じることも、大切な経験と受け止めていました。
育成入団で4軍からスタートしたプロ生活。遠く感じてきた1軍の舞台に立つ相棒の姿を、目に焼き付けました。
身近な存在が大舞台に立つ姿を見て、”遠い場所ではない”と感じたでしょうか──。長水投手に問うと、「いや、やっぱり(1軍は)近くもないところなので。アイツの実力で上がっただけの話。だからもう、頑張ろうとしか思わなかったですね。投げたいな、マジでここで投げたいなっていうのはすごく感じました」と”ライバル”をリスペクトし、大いに刺激を受けました。
共に師事してきた奥村政稔2軍投手コーチの現役時代の登場曲「田園」(玉置浩二)が鳴り響く中、マウンドに上がる藤原投手の姿を「素直にかっこええなと思いました。やっぱり憧れの場所なんで」と熱い眼差しを送りました。
悔しい気持ちと強い刺激でいっぱいになった長水投手。「もうそれしかないっすね。もうただ投げたいっていう。俺は何しとるんやってなったんで。またもう1個、火が付いた感じ」と力強く語りました。

ハモンド投手は、「僕も緊張しました」と後輩右腕のマウンドを見届けました。「いつも寮の(自分の)部屋にいる藤原があそこに立っている…普通に感動しましたし、頑張らないといけないと思いました」と心に響くものがありました。
育成選手にとっては、支配下入団の選手の初登板とは、やはり異なる”特別感”があったようです。3桁の背番号を背負い、共に汗を流してきた仲間が這い上がった姿を目の当たりにして、何も思わないわけがありませんでした。

相原雄太投手は、「夢があるなと思いました」と頷きます。3軍戦終了後に、わざわざ約1時間かけてでもドームに足を運んだ理由は、「藤原だから」。
「去年1年間、3軍で一緒にやってきて、上手くいっていない時も苦しんでいた時も知ってるので。そこからあそこまで這い上がった姿を見て、自分だって何かのキッカケで変われるかもしれないと思えたんです。刺激を受けました」と藤原投手から感じた”希望の光”。決して上手くいくことばかりではありませんが、背中を押してくれる後輩の”勇姿”でした。

澤柳亮太郎投手は、「入ってきた時、ひょろひょろで頼りなかった子が、すごく頼もしくなった」と6歳下の同期の成長を見つめました。登場曲の「田園」が鳴り響くと「久しぶりに鳥肌立ちました」と興奮気味に振り返ります。
さらに、近くで一緒に観ていた長水投手やハモンド投手、岡田皓一朗投手らみんなの表情が気になった澤柳投手。「みんなが『自分もここでやってやるぞ』って顔をしていたんですよ。自分も負けていられないですね。気合いが入りました。リハビリで苦しいこともあるけど、出来ないことなんてないんだと思えました。藤原は”ありがたい存在”ですね」と噛み締めるように語りました。

井﨑燦志郎投手は、この日、デーゲームで行われた3軍戦の9回に登板後、親友の初登板へと急ぎました。「自分、涙出そうになりました。本当は悔しがらないといけないんでしょうけど、1番仲良いやつが投げてるって考えたら…。僕がプロ野球選手じゃなくて、ただの友達だったら大号泣していましたね」と熱を込めます。
「去年まで一緒に”大乱調”していたやつが、あそこにいる。成長も知っているし、すごいなって。自分も頑張らないといけない」
投げている時には、感極まっていたという井﨑投手ですが、藤原投手が降板すると、悔しい気持ちが押し寄せてきたといいます。”親友”でありながらも、”ライバル”。この日、井﨑投手も3軍戦で自己最速155キロをマークしましたが、「大翔は(速球を)連発していたので、負けていられない。だいぶ置いていかれましたけど、頑張らないと」と強烈な刺激を受けた時間でした。
佐々木明都投手は、「1年でこんなに変われるんだ」と感じたといいます。「あんなに(ボール表示の)緑ランプが点灯していたのに、粘り強く投げていました。スゴいなと思ったし、刺激になった。改めて、頑張ろうと思えました」と藤原投手の初登板を振り返ります。

前田純投手と大野稼頭央投手は、後輩の晴れ舞台を応援に行きました。
前田純投手は「めっちゃ緊張してましたね」と藤原投手の姿に、自身のプロ初登板を重ねたといいます。「思い出しましたね。同じ育成からの1軍。(登場曲の)『田園』流れた時、関係ないのに自分も感動しましたもん」と優しい表情で語りました。
大野投手は、「可愛い後輩」の初登板初先発を「いちファンとして現地で応援しました」と明かします。「藤原だから、みんなも行こうってなったんだと思います。可愛いですよ。野球はすごいし、なんか絡みたくなる存在。なんかありますね」と笑いました。
3、4軍時代から共に汗を流してきた後輩のプロ初先発に刺激を受けました。そして、次は自身も狙う先発としての1軍マウンドに思いを馳せました。

藤原投手のプロ初登板初先発が、本人にとって大切なプロでの一歩であるのはもちろんですが、筑後でもがく若鷹たちにとっても、自身を奮い立たせてくれる、希望を感じる大きな出来事だったようです。
取材すればするほど、それぞれの言葉に胸が熱くなりました。これを機に、若鷹たちはもっともっとガツガツして、高みを目指して奮闘してくれるはず。次は誰が這い上がるのか、楽しみに見守りたいと思います。
