“世界クラス”の捕手誕生を見届けられるかもしれない。
「このまま何も挑戦せずにいっちゃうと、いつか抜かされちゃうなと思いました」
日本を代表する捕手が語ったこの言葉が、福岡ソフトバンクホークスの捕手陣の”レベル”を表しているのではないでしょうか。

新たなスタイルへの挑戦
7月11日、筑後の屋内練習場で熱い時間が流れていました。ホークスの捕手領域のアドバイザーを務める緑川大陸さんの特化練習に、山本祐大捕手と育成ルーキーの池田栞太捕手が参加しました。
緑川さんは、子どもからプロまで幅広くキャッチャースキルを指導する”キャッチャーコーチ”として活躍中。選手としてプロ経験はありませんが、卓越した技術と知識、情熱でホークスに招聘されました。2023年秋季キャンプ、2024年春季キャンプでは「キャッチングコーディネーター」として、昨季からは「捕手領域へのアドバイザリー契約」を結び、捕手陣の育成・技術向上に大きく貢献しています。

緑川さんによると、この日は山本祐捕手が「やったことがない動き」を練習したといいます。
それは、片膝をついた状態でボールを止める動き。「片膝をついてボールを捕る(キャッチング)っていうのは今までやってきているんですけど、その状態でボールを止めたことがないので。そこをチャレンジしてもらいました」と説明します。
片膝をついた状態でボールを捕るのは、”フレーミングがしやすい”とされ、走者がいない時にはこのやり方を採用する捕手が増えています。さらに、片膝をついた状態でブロッキングができると、目線のブレが少なくなります。従来の膝を上げた体勢からボールを止めるとなると、膝を下ろさなければなりません。そうなると、「目線がブレる」のです。
また、膝を下ろす際、捕手は一度体を浮かせるのが”ブロッキングのコツ”といわれています。しかし、「この動きとフレーミングの動きが真逆なので」と緑川さんは説明します。走者が出ると、両膝を上げた体勢で構えるケースが多く、そうするとフレーミングが上手くいかなくなるのです。
ワンバウンドが来るかもしれないし、低めのストライクが来るかもしれない。いずれにも対応できる準備が求められますが、実際に1試合の中で、キャッチングする球とブロッキングが必要な球は明らかに前者の方が多いもの。
「だったら、こっち(フレーミングしやすい体勢)を軸にした方がいいですよね。『フレーミングが上手く出来る状態で止められたら最高じゃない?』とタイトルホルダーに対しておこがましい話なんですけど、キャッチャーとしての考え方を提案させてもらいました」と緑川さんは明かします。さらに、山本祐捕手の現状についてこう語ります。
「彼、めちゃくちゃ上手なんですけど、どうしてもランナーがいる時といない時で形が変わってしまうので、そこの差をなくせればなくせるほど、もっともっとチームに貢献できると思うんです。それは彼の中でも、思っていた部分はあったみたいで。ただ、実際取り組んでいなかったことだったので、『なんでこういう形でやるのか』『何のためにやるのか』っていうところを説明して、本人も『分かってよかった』と言ってくれました」
タイトルホルダーの見本となったのは”育成捕手”
練習中、緑川さんの話に耳を傾け、何度も大きく頷く場面が見られた山本祐捕手。そして、緑川さんがタブレットにあるサンプル映像を見せると、前のめりになって集中して見ていました。


その映像で、”見本”となっていたのは、なんとホークスの育成捕手たち。
「面白いのが、ゴールデングラブ賞を獲得した経験のあるキャッチャーに対して見せる動画サンプルが、全部ホークスの育成選手のものなんですよ。他の球団ではあり得ないことなのかなと思います」と緑川さんは熱を込めました。
これから山本祐捕手が取り組もうとしていることは、すでにホークスの2、3軍の捕手たちは試合でできているのです。試合が続き、失敗が許されない1軍では、なかなか取り組むことができない部分を、「2、3軍では取り組めているので、その成果を見せました」といいます。
興味はあっても、これまでなかなか手付かずだった領域。驚きなのが、山本祐捕手は横浜DeNAベイスターズ時代から、盛島稜大捕手や大友宗捕手らホークスの育成捕手たちの動きをSNSなどでチェックしていたそうなのです。
「上手いんで、見ていました。僕もそういう風に取り組みたいなと興味深く見ていました。ヒントというか、参考にしていました」
この日も、共に練習した8歳下の育成ルーキーのプレーに真剣なまなざしを送ると、「このまま何も挑戦せずにいっちゃうと、いつか抜かされちゃうな」と呟いた山本祐捕手。
「挑戦しなくなった時点で、抜かされていく世界ですし。自分の中でも物足りなさは感じていた中、トライできるチャンスをいただけたので、そういった面ではどんどん挑戦していきたい」と決して現状に満足することはありません。
ベイスターズの正捕手が、熱烈に求められてのホークス移籍。既に賞賛の声も多く聞かれる中、心の奥底で感じてきたという”物足りなさ”。成長意欲に溢れていました。


野球界に影響を与えられる捕手に…
「今の段階でも球界を代表する素晴らしいキャッチャーなんですけど、僕はそこに留まってほしくない。野球界全体に影響を与えていけるようなキャッチャーになってもらいたい。世界クラスを目指して欲しいんです。そのためには、今までやってこなかったことをチャレンジしていくっていうのが大事なのかなっていうのを2人で話したんです」
緑川さんがそう語れば、山本祐捕手も静かに熱く訴えます。
「キャッチャー練習ってどこも同じようなことをやっているんですよ。だから、キャッチャーのレベルってどうしても上がっていない。単純にメジャーにいけた人が城島(健司)さんだけっていうのは、バッティングも含めなんですけど、守備面にも何かしら理由があるのかなと思っていて。キャッチャーの進化っていうのは、これからの課題。それをホークスは最先端でやっているので、すごく勉強になりました」
緑川さんとの会話で胸を熱くした山本祐捕手は「まだまだ自分も成長できる、伸び代はあるんじゃないかと感じられました。すごくいい時間でした」と頷きました。
すでに魅力溢れる捕手が、さらに”進化を続ける姿勢”を見せました。「ちょっとずつ練習していくしかない。もちろん、すぐ上手くなるわけじゃないので、コツコツやっていきたい」と先を見据えました。ホークスから”世界クラス”の捕手誕生へ──。大きな刺激と覚悟を胸に、挑み続ける姿を見届けたい。
<緑川塾の様子>
